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仙台高等裁判所 昭和30年(ネ)317号 判決

控訴人 山内利平

被控訴人 釜沢幸作 外一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人等に対し金十八万三千五百九十九円及びこれに対する昭和二十九年四月十六日以降完済迄年五分の割合による金員を支払うべし。

被控訴人等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分しその二を控訴人、その余を被控訴人等の負担とする。

この判決は第二項に限り被控訴人等において各金三万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

控訴人において被控訴人等に対し各金四万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人等の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする」との判決並びに保証を条件とする仮執行の免脱の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決並びに保証を条件とする仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴人等代理人において、負傷により破傷風を併発することは通常のことであつて、控訴人がこれを予見できない特別事情であると主張するのは当らない、控訴人のその余の抗弁事実を否認する、と述べ、控訴代理人において、仮に控訴人に損害賠償の義務があるとしても被控訴人等は当初同控訴人に対し格別憎悪の念を有しなかつたのであるからこの事実は損害賠償の額について斟酌さるべきである、と述べたほか原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

〈立証省略〉

理由

控訴人が昭和二十八年四月四日青森県三戸郡北川村大字剣吉字中町二十五番地田中正一郎方前道路上において自己運転に係る自動三輪車青六-四五七号を顛覆せしめたこと、右三輪車に同乗していた訴外釜沢良悦がその際右大腿部に挫傷を負つたこと、右訴外人は同年同月十六日死亡したことは当事者間に争がない。

而して成立に争のない甲第二十乃至二十五号証、原審証人釜沢幸悦、釜沢政友、田島順三、名取達夫の各証言、原審における被控訴人釜沢幸作、控訴人各本人尋問の結果を総合すれば、控訴人はりんご製造販売業者であつて、右自動三輪車はその営業用に使用しているものであるところ、右運転当時控訴人は相当酩酊していたこと、右三輪車は前車輪心棒のねじが磨滅しているので長距離を運転するときは自然に弛みを生じ危険なものであることを控訴人は知つていたこと、本件顛覆事故は右ねじの弛みに拘らず時速二十五粁の速度で疾走中前記道路上で車体が左側に傾斜した際狼狽した控訴人が急停車の措置を執つたため発生したものであること、訴外釜沢良悦は右事故により路上に跳飛ばされ右大腿部に挫創を負つたが破傷風を併発して昭和二十八年四月十六日に死亡するに至つたことを認めるに足る。

右認定事実に徴するときは、右訴外人の少くとも負傷した事実に対しては控訴人が自己の営業に使用する前記自動三輪車の車体整備に関する怠慢と、酩酊運転及び速度の調節をしなかつたという不注意がその原因を為しているといい得るから結局良悦の死亡は控訴人の右過失に因るものといわなければならない。

控訴人は右訴外人の死亡が破傷風に基因するものであり、この病気の発生は通常人の予見できないところであるからかような特別事情に因る死亡については責任を負うべきいはれがないと主張するが、当審における鑑定人大内清太の鑑定結果によれば、外傷に因り破傷風を起すことは稀ではあるが皮膚に損傷がありしかも人馬の通行する道路上で土砂に汚染された外傷を受けたときに破傷風の起る率は然らざる外傷の場合より高いのでかような折は破傷風を一応警戒すべきものであることが認められ、成立に争のない甲第十九号証、原審証人田島順三、名取達夫の証言によれば良悦の右膝関節上部の挫滅創は径約五糎で表皮がとれ筋肉の露出したものであつたことが認められるのであるから同人の破傷風に因る死亡と控訴人の過失は相当因果関係があるものというべきであつて控訴人の右抗弁は採用できない。

而して控訴人の右所為が不法行為を構成することはいうまでもなく被控訴人釜沢幸作が右訴外人の父、被控訴人釜沢ジユンがその母であることは控訴人の認めるところであるから控訴人は右訴外人の死亡によつて生じた被控訴人等の損害及び慰藉料支払の義務を負うことは明らかである。

よつて先づ損害額について按ずるに、成立に争のない甲第二号証の一、二、原審証人田島順三の証言及びこれによつて真正に成立したものと認める甲第三号証の一、二、原審証人名取達夫の証言及びこれによつて真正に成立したものと認める甲第四号証、原審における被控訴人釜沢幸作本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第五号証の一、二、第六乃至十一号証、第十三号証、第十四号証の一、二、第十五、十六号証、成立に争のない甲第十二号証を総合すれば被控訴人等は右訴外人の前記負傷に対する医療費として合計金五万二千六百二円、右訴外人の死亡による葬儀仏事費用として金三万九百九十七円を出捐したことが明らかであつて右は未成年十六歳の子良悦の死亡による被控訴人等の通常の出費とみるのを相当とする(右各費用の支払に対する領収書の名宛人は被控訴人釜沢幸作の名義になつているけれども被控訴人等は夫婦であるからその出費は共同生活者たる両名のものと云はなければならぬ)。

次に被控訴人等が両親として訴外人の死亡によつて受けた精神上の苦痛に対する慰藉料の額は成立に争のない甲第一号証、同第十七号証の一、二、第十八号証の一乃至三、原審における被控訴人釜沢幸作、控訴人各本人尋問の結果を総合して認められる本件両当事者の資産状態、家庭事情、本件事故発生の縁由、良悦の年令、控訴人の抗弁等一切の事情を斟酌して各自につき金五万円宛を相当と思料する。

従つて被控訴人等の本訴請求は金十八万三千五百九十九円及びこれに対する本件訴状送達の翌日たること記録上明らかな昭和二十九年四月十六日以降完済迄年五分の割合による金員の支払を求める限度においては相当であるがその余は失当なものとして棄却すべく、本件控訴は一部理由がある。

よつてこれと異る趣旨の原判決を変更し民事訴訟法第三百八十四条、第三百八十六条、第九十六条、第九十二条、第九十三条、第八十九条、第百九十六条第一項、第二項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

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